今日は2つ投稿です。
カフカの「変身」を読んだので感想をば。
Dieは定冠詞、verwandlungは変容、変形、転身という意味があるようです。ドイツ語の辞書が手元にないので例文や使われ方はよくわかりませんが、verwandlung meaning で検索するとmetamophosisという言葉に会いました。1)魔力による変質、変形 2)[生物]変態
だそうです。
the metamorphosis of a lady into a fox.
(狐になった奥様)→デイヴィッド・ガーネット1922年 *カフカの変身 は1912年執筆、1915年出版
His demeanor underwent an instant metamorphosis.
(彼の態度がたちまち一変した)
the metamorphosis of tadpoles into frogs.
(おたまじゃくしからカエルへの変態)
【あらすじ】
外交販売員のグレゴール・ザムザ(実家暮らし、二人兄妹の兄)、ある朝起きると虫になっていた。
【感想】
「引きこもりや不登校の人が読むとめっちゃわかるっていうらしい」という評判のもと、大学生になってはじめて読みました。一応高校生の頃も手に取ったのですが、意味不明ですぐ読むのをやめてしまいました。人にはその本を読むタイミングがあるんだと思います。
登場人物は虫になってしまった主人公ザムザ、妹、父、母、上司、女中3人(1→2→3と変わるのですが、もしかしたらこの女中の変わる場面と物語の流れが対応しているのかも)、家を借りに来た紳士3人
です。
ザムザは意外といい人で、虫になる前は働かないお父さんの変わりに働き、バイオリン好きの妹のために音楽学校の資金を貯めたりしています。
私は「うつ病になったサラリーマンってこんな感じなのかな」と思って読んでいました。
自分にも何が起きているかわからないし、家族からは蔑んだ扱いを受けるし、(「あいつがいるから私たちこんなに辛いのよ」的な)、最後は自分はいなくなった方がいいんだー って教会の鐘の音を聴きながら弱って死んじゃいます。
でも当の家族はザムザがいなくなって、久しぶりに各々休暇をとって出かけると自分たちが変化していることに気づきます。両親は娘に対して、そろそろお婿さんを探さないとなぁとか考えたり。
私自身、verwandlungをよく体験するので大学生になった今はなるほどーと思いながら読んでいました。
たとえば家族の描写がすごく上手くて。
ザムザの世話は妹がするのですが、わざと部屋を汚くしておくことがあって。これを見かねて普段ザムザを怖がっていた母親が片付けをするのですが、後で妹がすごく怒るんです。
対照的に、妹がすっかり家具を片付けてしまおう、ザムザ兄さん狭そうだし って言うとザムザは同調するのですが母は反対します。それは文化的じゃないし、人間的でなくなってしまうわ、みたいな調子で。それを聞いてザムザは「自分はだんだん人間じゃなくなっているのかも...」と不安になったりします。
なんだかもう、誰か「森へ...お帰り...」って言ってやればいいのにって思うのですが、ザムザは身動きがとれません。
こういう描写は思春期、家に居づらかった頃の感覚をすごく思い起こさせました。
最大の謎はザムザが死んだ後何が残ったか?
です。
おそらくザムザとの唯一のコンタクトをとれた人が3人目の女中さんなのですが、ザムザの死んだ後に何か見つけたようなのです。
「この一家にたいそうすばらしいことを聞かせてやりたいのだが、根掘り葉掘り聞かれるのでなければ、そうあっさりとは聞かせられないという様子である」p.94
でもそれが何か知らされることはなく、(家族が別に聞く必要もないという態度をとったので)、
ラストに続きます。
ラストは肩の荷がみんな下りたような、清々しさを感じます。
うーん 似たような清々しさとしては伊丹十三の「お葬式」とかにあるのかなぁ。
つまりverwandlungは自分の在り方(他者の在り方)や、他者の在り方(自分の在り方)を変える大切な過程なのでは? と思います。
家族はザムザが虫になって辛かったけど、でもそれは今まで家族がどれだけザムザに依存していたかということも同時に明らかになるのです。
個人的には、ザムザがまたさらに何かに変わっていく過程も見てみたかった気もしますが、それは野暮な願いなのでしょう たぶん。
https://www.amazon.co.jp/変身-新潮文庫-フランツ・カフカ/dp/4102071016
【参考】
こころの読書教室、河合隼雄