そんな日々がどこかに

武田百合子さんのエッセイ、「犬が星見た」を読み終えました。

 

武田百合子さんの夫・武田泰淳と編集者の竹内さんの三人がツアーに参加し、中央アジアグルジアウクライナ、ロシア、スウェーデンに行く旅行記です。

 

あとがきでは「帰りの飛行機は宇宙船のようだった。私だけなぜ途中下車してしまったのか」という趣旨のことが書かれています。

 

読み終えて、夏のクロアチア旅行がありありと思い出されました。

 

旅行の思い出というのは、どれも大切な景色・瞬間に思えるのですが、何気ないことほど、きちんと覚えているものです。

 

その時私は午前3時か4時に起きて、「星を見よう」と言われて足音を立てないように外に出ました。

 

外気が冷たく、乾いているなか、ラピスラズリをもっと濃くしたような空に星が散らばっていました。

中でも明るい惑星や、見つけやすいオリオン座を眺めた後でゆっくりと規則的に動く点を見つけました。

 

それは人工衛星で、流れ星のように、けれどもゆっくりと星々の間を動いていくそれは日本ではついぞみかけたことがありません。

 

そんなことがとてもうれしかったです。

 

あの時の白い壁も、ブランコも、ひっそりとした森の息づかいも

そこにしかないもので、

そんなに遠くに来たんだな、ということがとてもおもしろかった。

 

それだけではないけれど、

その旅行を思い出す時

そんなことが私にもあったのだとちょっと誇らしかったのでした。

 

本を読めばどこにだって行けるし、誰にだってなれるのに、

でもきちんと生きていることがうれしい。

 

そんな日々がどこかにあることをとてもうれしく思います。