友達のナンパを手伝いに行った話(前日譚)

退寮して1年も経つのに、寮に入り浸っている。

友人Hが「買っておいたワインを飲んでしまった」とかそういう理由でひょっこり新宿から私が出向くのだ。

 

Hは某省庁の留学支援金をアテにしていたのだが、面接で落ちてしまった。ウケる。

 

でも合格者はなんとなく東京の大学の人が少ないのかな、と思ったのでつまりそういう方向性なのだろう。

 

駅に着くと共通の友人Sと一緒に財布なしで「お金なーい」とものすごい笑顔でぴょんぴょん跳ねながら言った。

(このSも留学支援金の面接に落ちている)

 

そのあと三人でカラオケに行った。

「あとで返してね」と言って私が払う。

 

カラオケでは

Hは「青いベンチ」とか「プラネタリウム」とかヒットした恋愛の曲ばっかり歌い、私は「名残り雪」とかZAZ を歌って置いてけぼりにする。Sはワンオクとか歌ってた。

 

Hと私はジェンダー的にはfemale 、Sはmaleだ。

 

HとSはZAZを「全然わからん...」と流したあとに二人で「Despacito」を歌っていた。

 

参考:

https://youtu.be/kJQP7kiw5Fk

 

 

カラオケも終わり、缶ビールとピーナツを買って帰る中でその計画ははじまったのだ。

 

【Sのナンパ作戦】

 

主張....学校で出会いねエ! 寮で告っても恋人できねエ! Tinderやりとりうまくねエ!

 

カウンターパート:テキストメッセージで話が続かないってコミュ力以前の問題ジャン

 

主張...おら渋谷さ行くだ〜 

 

というわけだった。

「もうブスじゃなくてデブじゃなければいい」という雑でひどい基準になったSはナンパをすることにした。

 

スケッチブックに紫のパステルマーカーで15という数字を書き、

 

「お姉さん、僕と15分だけお茶しませんか?」と声をかけまくる。

 

何度かシュミレーションをする時に

最低のパターン (「なんかこの人こわい。行こう行こう」と小声で友達同士ささやきあって逃げる)

をやった。

走って追って来たSが本気でこわかった。

 

スーツ姿の私が趣旨を説明するシュミレーションをすると

「AVみたいだな」

という感想になる。

 

世のキャッチやナンパ師がどのようにナチュラルに寄り添って歩くかなどを議論した挙句、「もうスケッチブック邪魔」という話も出てきた。

 

決行は土曜日の夜。

 

その日の朝に聞いたSの言葉を私は忘れない。

 

「渋谷って遠い....」

 

これを聞いてHは「しょーもなっ」と一喝する。

 

私はといえば用事があるので新宿に向かわなければいけなかった。

「絶対Sを連れてきてね」とHに念を推した。

 

外に出る。

 

回想。

カラオケの後、夜

「もうここには戻らない、と決意して出るのに結局何度も来てしまう。」

 

「いらなくね、その決意」

 

「いらないよ、そんなもの」

 

 

春だ。少し暖かくて風がふんわりしている。体が軽くなる。

 

大学生活、なにも悔いはない。

中学で、部活ばっかり、高校で勉強ばっかりだった。

大学生活は、もっといろんな人に会いたいからという理由で寮に入った。

もっと楽しくすることもできたかもしれないけれど、馬鹿げたことを春にするのは今しかなかったのだ。