十角館の殺人(感想)

※本記事はネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。

 

アルバイトで来てた大学生の子に、最近読んで面白かった本として綾辻さんの「十角館の殺人」をあげられたので、買って読んでみた。

 

序盤の感想は「名前がそれぞれニックネームだぞ!」「島と本土だったら本土の方が面白いなぁ」「展開はわりと早めでエンタメとしてはよくできてるなあ」くらい。

中盤は「みんな殺人事件が起きてるのによく寝ようとするな」で、終盤は「これで終わり?」という感じだった。

 

犯人については、早い段階で「まずそこを疑うべきでは?」という点があっさりスルーされていたところがあった。言ってしまうと一番最初に到着していた人間かつ島での生活が準備できそうな人間を疑ってもいいシーンが一か所あって、その点を登場人物たちは気にしなかったから、犯人像について、「誰もが安心しきってしまう、言うなれば影のうすい人間」であったことが気になった。

次に動機だけれど、登場人物の間で事故であった(と思われる)故人についての感想が共有されず、これまた影の薄い人物であったことが気になった。

強調されていた「左手首」の謎について、島に関係者が来る前の事件が無理心中であったとすれば、「左手首」にこだわる必要がなかったのではないかと思う。

 

また、「本土」と「島」の2パートがあるけれど、「本土」側の探偵役が事件解決にもっと積極的になってもいいと思った。

意図してかそれが省かれているので、全体としては「犯人」視点の物語に仕上がっており、それで犯人に共感できるエピソードがあるならまだしも、犯人の動機と行動力があまり結びついていないようにも思えて、エンタメとしては面白いけれど人物の造形としては失敗している印象を受けた。

 

読んで改めて、私は「探偵」側が勝利する話が好きなんだな、と感じた。アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」「アクロイド殺し」の中では一番「アクロイド殺し」が好きなのだが、それは名探偵がトリックを見破るが、読者はそれを看破できない、という名探偵への「信頼感」があるのが私の好みなんだなと思った。

 

というわけで、読後には消化不良感が残る。単に相性の悪い作品だったのかもしれない。